ルソー

1712 - 1778

ルソーについて

 ジャン=ジャック・ルソーは、スイスのジュネーヴに生まれ、主にフランスで活躍した哲学者、政治哲学者、作曲家です。その波乱に富んだ生涯については、自伝である『告白』に詳しく描かれています。
 1728年3月21日、ルソーはアヌシーのヴァランス男爵夫人の屋敷を訪ねて世話を受けるようになりますが、これが人間ルソーを大きく成長させるきっかけとなります。ルソー15歳、ヴァランス夫人はこのとき29歳でした。以下『告白』からその時の出会いを述べた部分を引用します。

「それは彼女の家の背後の細径だった。右手には小流れが家と庭園とを区切り、左に中庭の土塀があって、その門を抜けると、聖フランシス教会への道が続いている。門を潜ろうとしかけたヴァランス夫人は、呼ぶ声を聴きつけて振り返る。一目見た私は、どうなっただろう。私はしかめ面をした信心に固まった婆さんを心に描いていた。ポンヴェール氏のいわゆる善い夫人は、私にはそれ以外の何者でもあり得なかったのである。ところがそこに見たのは、愛嬌の漲った容貌、優し味をたたえた美しい青い眼、眩ゆいばかりの顔色、妖艶な襟首である。何物もこの年若な改宗婦人のすばやい一瞥を逃れ得なかった。私はたちまち彼女にとらわれた。こんな伝道者の説く宗教なら、人を天国に導く事疑いなしと思ったのである。私が震える手で差し出した手紙を、彼女は微笑みながら受け取る、開く。ちょっとポンヴェール氏の手紙に眼をくれた、また私の文に眼を移して読み終わった。もし下男が入場の時間の来たことを知らせなかったら、もう一度それを読み返したところだった。
「まあ、あなた。」震えさせるような調子で私に、「年も行かないのにいろんなところを渡り歩いて。本当にお気の毒なことねえ。」と言って、返事も待たずにまた、
「私のところへ行って待っていてくださいね。ご飯を食べさせてもらってね。お勤行が済めば帰って、お話をしましょうね。」と付け足した。」

 ルソーの業績は、哲学、文学、音楽と多岐に渡り、音楽ではオペラ「村の占い師」が有名で、特にその中の一曲は「むすんでひらいて」のメロディーとして今でも親しまれています。
 ルソーから影響を受けた人物としては、哲学者のイマヌエル・カントが有名です。 カントは毎日決まった時間に散歩に出るのを常としていましたが、ただ一度だけ遅れたことがあり、それはルソーの著作『エミール』をつい読み耽ってしまったときのことでした。彼は、『美と崇高の感情に関する観察』への覚書きで次のように書いています。

「わたしの誤りをルソーが訂正してくれた。目をくらます優越感は消え失せ、わたしは人間を尊敬することを学んだ。」

 主著としては以下のものが挙げられすが、この他に多数の著書があります。
 『人間不平等起源論』『ジュリまたは新エロイーズ』『エミールまたは教育について』『山からの手紙』『言語起源論』『告白』『ルソー、ジャン=ジャックを裁く・対話』『孤独な散歩者の夢想』

ルソーの作品