昭和前期小説大全 

モダニズムとプロレタリア、そして忍び寄る戦争の暗い影

この本について

昭和前期の時代と文学

 大正末に起こったプロレタリアの文学は小林多喜二の「蟹工船」、徳永直の「太陽のない街」という傑作を生み出しますが、昭和初期には当局の弾圧のため崩壊します。またこのころモダニズム文学が起こります。その代表として、新感覚派と呼ばれた横光利一が挙げられます。彼はジョイスやプルーストの影響を受けて心理主義の傾向を帯び、「機械」や「紋章」などを書きました。また後にノーベル文学賞を受賞することになる川端康成もその才能を輝かせ、「伊豆の踊子」や「雪国」などを発表します。その他梶井基次郎、井伏鱒二、堀辰雄なども旺盛な創作活動を続けました。また島崎藤村は昭和十年に、大作「夜明け前」を完成し、文壇に深い感銘を与えました。
 しかし、昭和十年代に入ると戦争の影響は避けがたく、文学の世界でも次第に意欲的な創作活動は下火となってきます。そのような中でも自己の芸術的な使命に純粋に従って、旺盛な創作活動を続けたのは太宰治でした。初期には退廃的な傾向の強かった太宰は、この時期自己の中に沈潜することで数々の傑作を生み出しました。「富嶽百景」「新釈諸国噺」「津軽」「走れメロス」等が書かれました。また中島敦は結核のため短い生涯でしたが、「山月記」「李陵」など少ないながらも文学的なエッセンスのつまった傑作を残しました。この他北条民雄の「いのちの初夜」や原民喜の「夏の花」など異色の傑作が生まれたのもこの時期でした。

この作品集には以下の四十七作品を収録しました。


昭和二年(一九二七年) 
 河童(芥川龍之介)
 蜃気楼(芥川龍之介)
 或阿呆の一生(芥川龍之介)
 ルウベンスの偽画(堀辰雄)
 冬の日(梶井基次郎)

昭和三年(一九二八年) 
 渦巻ける烏の群(黒島伝治)
 業苦(嘉村礒多)
 ある崖上の感情(梶井基次郎)

昭和四年(一九二九年)
 冬の蠅(梶井基次郎)
 蟹工船(小林多喜二) 

昭和五年(一九三〇年)
 機械(横光利一)
 聖家族(堀辰雄)
 闇の絵巻(梶井基次郎)

昭和六年(一九三一年) 
 交尾(梶井基次郎) 

昭和七年(一九三二年) 
 のんきな患者(梶井基次郎)
 途上(嘉村礒多)

昭和八年(一九三三年) 
 美しい村(堀辰雄)

昭和一〇年(一九三五年) 
 夜明け前(島崎藤村)
 ダス・ゲマイネ(太宰治)

昭和一一(一九三六年) 
 晩年(太宰治)
 いのちの初夜(北条民雄)
 風立ちぬ(堀辰雄)
 鶴は病みき(岡本かの子)」

昭和一二年(一九三七年) 
 濹東綺譚(永井荷風)
 旅愁(横光利一)
 かげろふの日記(堀辰雄)

昭和一四年(一九三九年) 
 富嶽百景(太宰治)

昭和一五年(一九四〇年) 
 夫婦善哉(織田作之助)
 走れメロス(太宰治)

昭和一六年(一九四一年)
 縮図(徳田秋声)
 曠野(堀辰雄)
 菜穂子(堀辰雄)
 駆込み訴へ(太宰治)

昭和一八年(一九四三年) 
 山月記(中島敦)
 李陵(中島敦)
 大和路・信濃路(堀辰雄)
 死者の書(釈迢空)

昭和一九年(一九四四年) 
 津軽(太宰治)

昭和二〇年(一九四五年)
 新釈諸国噺(太宰治)
 惜別(太宰治)

昭和二一年(一九四六年) 
 パンドラの匣(太宰治)
 土曜夫人(織田作之助)
 赤蛙(島木健作)

昭和二二年(一九四七年) 
 夏の花(原民喜)
 斜陽(太宰治)
 ヴィヨンの妻(太宰治)

昭和二三年(一九四八年) 
 人間失格(太宰治)

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改版履歴

2013-12-21

第2版1、各小説には、Kindleでは本の最初にある目次から行くことができますが、レビューをいただいた点を考慮し、見出しを工夫してKindleの「移動」メニューから直接、各小説に行けるようにしました。

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