立原道造詩集

ミューズに愛され夭逝した詩人立原道造の詩業を集成

この本について

早くから非凡な詩才を現した立原道造は、そのあまりに短い生涯を結核のため24歳で閉じました。その優しい詩風は、私たちを魅了してやみません。
「人間であるよりは、はるかに妖精に近いような雰囲気」(中村真一郎)であった立原道造は、最もミューズに愛された詩人と言っていいでしょう。
この詩集には以下の作品を収めました。

萱草に寄す
暁と夕の詩
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ
その他の詩稿(ソネット)


或る風に寄せて

おまへのことでいつぱいだつた 西風よ
たるんだ唄のうたひやまない 雨の昼に
とざした窗のうすあかりに
さびしい思ひを噛みながら

おぼえてゐた おののきも 顫へも
あれは見知らないものたちだ……
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て
あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる

おまへのうたつた とほい調べだ——
誰がそれを引き出すのだらう 誰が
それを忘れるのだらう……さうして

夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に
そそがれて来るうすやみのなかに
おまへは 西風よ みんななくしてしまつた と

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