ドストエフスキー全書簡集7 : 「未成年」の頃

スターラヤ・ルッサでの執筆活動とエムスでの療養

この本について

 この「ドストエフスキー全書簡集」は全体を十巻に分けてあります。以下のように分かれています。
 年毎に詳しい年譜をつけましたので、書簡集の内容を理解する手助けとなります。

一、ドストエフスキー全書簡集1
 一八三二年(一一歳)から一八五四年(三三歳)まで
二、ドストエフスキー全書簡集2
 一八五五年(三四歳)から一八五八年(三七歳)まで
三、ドストエフスキー全書簡集3
 一八五九年(三八歳)から一八六四年(四三歳)まで
四、ドストエフスキー全書簡集4
 一八六五年(四四歳)から一八六七年(四六歳)まで
五、ドストエフスキー全書簡集5
 一八六八年(四七歳)から一八六九年(四八歳)まで
六、ドストエフスキー全書簡集6
 一八七〇年(四九歳)から一八七二年(五一)まで
七、ドストエフスキー全書簡集7
 一八七三年(五二歳)から一八七五年(五四)まで
八、ドストエフスキー全書簡集8
 一八七六年(五五歳)から一八七七年(五六)まで
九、ドストエフスキー全書簡集9
 一八七八年(五七歳)から一八七九年(五八)まで
十、ドストエフスキー全書簡集10
 一八八〇年(五九歳)から一八八一年(死去)まで

 この本は、その6にあたります。

 この古典教養文庫版の「ドストエフスキー全書簡集7 : 「未成年」の頃」には、次のような特長があります。

  1. 現在では使われない言い回しや言葉は、現在普通に使われる言葉に置き換えました。現代人には意味の取りにくい文は、平易な文に書きなおしました。しかし、その場合でも原訳の高い格調はできるだけ損なわないように最大限の配慮をしました。

  2. 原文で触れられた場所、人物、絵画などを中心に、関連する画像を、著作権フリーのものにかぎって、いくつか挿入しましたので、より興味深く読み進めることができます。

  3. わかりにくい言葉や、登場人物、でき事、作品などについての適切な注を、編集者が割り注の形で入れましたので、本文の理解が深まります。

ドストエフスキー全書簡集7 : 「未成年」の頃について

妻アンナへ(一八七四年十二月二十日)
 ……本屋連中は残念ながら、ほとんど誰も呼びかけに応じてくれない。どうやら『死の家の記録』はしばらく寝るらしい、まあ、あとからぼつぼつ目立たないように、図書館や少数の愛読者が買ってくれるだろう。どうもわたしはあまり大して尊重されていないらしいよ、アーニャ。昨日『市民』誌を読んだところ(お前ももう聞いたかもしれないが)、レフ・トルストイは四十台分の長編小説(『アンナ・カレーニナ』)を『ロシア報知』に売って、一月号から掲載される——一台五百ルーブリの割、つまり全体で二万ルーブリだそうだ。わたしには二百五十ルーブリ出すのでもすぐには決心がつかないのに、トルストイには五百ルーブリ御の字もので払うのだからね! いや、世間はわたしをあまり低く評価しすぎる、と言うのも、わたしが仕事で生活しているからだ。今度だってネクラーソフは、もし何か彼ら一派の主義に合わないことでもあれば、うんとわたしを傷めつけるかもしれないのだ。なにしろ『ロシア報知』は今(といって来年度の話だが)長編の原稿を山と積んでいるので、さしあたりわたしの原稿を買わないということを、ネクラーソフはちゃんと知っているのだ。

妻アンナへ(一八七五年二月七日)
 ……さようなら、アーニャ、子供たちを抱きしめてキスする。今日もそういうわけで、用事は一つもできないだろう。が、そのかわり、校正だけはすんだから、今夜はぐっすり寝られる。トルストイの長編(『アンナ・カレーニナ』)は、ガラスの鐘をかぶっている間(治療中)だけ読んでいる。それよりほかに暇がないからだ。退屈な小説で、それにどうもなんのことか得体が知れない。みんながどうして有頂天になっているのか、わたしには分からない。さようなら、アーニャ、お前をはじめ子供たちみんなを抱きしめる。
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底本

 ドストエフスキイ全集 17
   訳者 米川正夫
   河出書房新社
   昭和四十五年十一月三十日 初版発行
   昭和五十六年六月八日  第八版発行

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