渾身の力を振り絞り、畢生の大作の完成に挑む
この本について
この古典教養文庫版の「ドストエフスキー全書簡集9: 「カラマーゾフの兄弟」の頃」には、次のような特長があります。
- 現在では使われない言い回しや言葉は、現在普通に使われる言葉に置き換えました。現代人には意味の取りにくい文は、平易な文に書きなおしました。しかし、その場合でも原訳の高い格調はできるだけ損なわないように最大限の配慮をしました。
- 原文で触れられた場所、人物、絵画などを中心に、関連する画像を、著作権フリーのものにかぎって、いくつか挿入しましたので、より興味深く読み進めることができます。
- わかりにくい言葉や、登場人物、でき事、作品などについての適切な注を、編集者が割り注の形で入れましたので、本文の理解が深まります。
ドストエフスキー全書簡集9: 「カラマーゾフの兄弟」の頃について
妻アンナへ(一八七九年八月十三日)
……かわいいアーニャ、わたしは自分でもたえず自分の死ぬことを考えている(ここで真剣にそれを考えるのだ)。それから、お前や子供たちに何を残してやれるか、ということも。みんな家には金があると思っているが、なんにもありゃしない。いまわたしは『カラマーゾフ』という重荷を背負っているが、これはうまく完結させなくてはならない、宝石細工のように仕上げなくてはならない。ところが、これは骨の折れる冒険的なもので、おびただしい力を持っていかれてしまう。しかし、これはまた運命を決する作品で、これがわたしの名声を確立してくれなければならない。さもないと、なんの希望もなくなってしまう。
……かわいいアーニャ、わたしは自分でもたえず自分の死ぬことを考えている(ここで真剣にそれを考えるのだ)。それから、お前や子供たちに何を残してやれるか、ということも。みんな家には金があると思っているが、なんにもありゃしない。いまわたしは『カラマーゾフ』という重荷を背負っているが、これはうまく完結させなくてはならない、宝石細工のように仕上げなくてはならない。ところが、これは骨の折れる冒険的なもので、おびただしい力を持っていかれてしまう。しかし、これはまた運命を決する作品で、これがわたしの名声を確立してくれなければならない。さもないと、なんの希望もなくなってしまう。

底本
なお底本は以下のとおりです。ドストエフスキイ全集 17
訳者 米川正夫
河出書房新社
昭和四十五年十一月三十日 初版発行
昭和五十六年六月八日 第八版発行