あたかも神のような存在のゲーテにも、人間としての弱みを見せる瞬間があります。そのことが改めてゲーテの偉大さを感じさせます。以下は「ゲーテとの対話(中)」より抜粋です。
彼が今日「色彩論」の話を出し、約束した概要の進み具合を尋ねた時、私は私の新しい発見を話したくなかった。なぜなら、どうしたら彼を立腹させずに、この真理を打ち明けられるだろうかと迷ったからである。しかし、私は概要に極めて真剣に従事していた。それ故、仕事を確実に進める前に一切の誤謬を排除し、一切の誤謬を訂正しなければならなかった。 そこで私は余儀なく全く正直に、自分は細密な観察により、二三の点で彼と齟齬するようになった。雪の上の青い影に関する彼の推論並びに二重の色彩についての彼の説を、全く是認できないからであると打ち明けた。私はこの点について私の観察と考えとを述べた。しかし問題を口で明らかに細かに述べることができなかったから、私は仕方なく、単に私の観察の結果だけを話し、上述したような個々の細やかな説明をしなかった。
しかし私が話し出すやいなや、ゲーテの気高い晴れやかな面影は曇った。私の抗議に賛成しないことがあまりに明瞭に分かった。
「事実、」と私は言った。「閣下に反対して正論を吐こうなどとはとんでもないことです。しかしそれにしても、大人は急ぎすぎて、子供が発見するということもありますから。」
「まるで君は発見でもしたような口ぶりだね。」とゲーテは多少皮肉に嘲笑しながら答えた。「色の光に関する君の観念は十四世紀のものだ。とにかく君は弁証法に堕している。いい点は君が正直で、思うことを直截に言った点だけだ。」
「私の『色彩論』は、」と次いで彼は、多少晴れやかに穏やかに続けた。「ちょうどキリスト教のような具合だよ。忠実な弟子たちができたと思っていると、知らぬ間に離れて新しい派を作っている。君も他の人々のような異端者だよ。と言うのは、君は私から離れた最初の人ではないからだ。私は『色彩論』中の論点のために、立派な人々と別れた。***とは***のため、***とは***のために。」彼はここで二三の有名な人の名を挙げた。
そのうちに食事は終わった。話は途切れた。ゲーテは立ち上がり、窓のそばに行った。私は彼のそばに行き、彼の手を握った。なぜなら、叱られても私は彼が好きであったからだ。また私の方が正しく、彼が敗者であったと感じたからだ。
しばらくしてわれわれはつまらぬことを再び話したり、冗談を言ったりした。しかし帰りがけに、私の異説をよく調べるために書いて送ろう。また私も説を認められないのは自分の弁舌のまずいがためだと言った時、彼は戸口でまた私に半ば笑い半ば嘲りながら、異端者だとか異端だとか言う言葉を浴びせかけずにはいられなかった。
(一八二九年二月十九日)