ドストエフスキー全書簡集8: 「作家の日記」の頃

「作家の日記」で広範な読者を得て、公私共に充実期を迎える執筆活動とエムスでの療養

この本について

 この「ドストエフスキー全書簡集」は全体を十巻に分けてあります。以下のように分かれています。
 年毎に詳しい年譜をつけましたので、書簡集の内容を理解する手助けとなります。

一、ドストエフスキー全書簡集1
 一八三二年(一一歳)から一八五四年(三三歳)まで
二、ドストエフスキー全書簡集2
 一八五五年(三四歳)から一八五八年(三七歳)まで
三、ドストエフスキー全書簡集3
 一八五九年(三八歳)から一八六四年(四三歳)まで
四、ドストエフスキー全書簡集4
 一八六五年(四四歳)から一八六七年(四六歳)まで
五、ドストエフスキー全書簡集5
 一八六八年(四七歳)から一八六九年(四八歳)まで
六、ドストエフスキー全書簡集6
 一八七〇年(四九歳)から一八七二年(五一)まで
七、ドストエフスキー全書簡集7
 一八七三年(五二歳)から一八七五年(五四)まで
八、ドストエフスキー全書簡集8
 一八七六年(五五歳)から一八七七年(五六)まで
九、ドストエフスキー全書簡集9
 一八七八年(五七歳)から一八七九年(五八)まで
十、ドストエフスキー全書簡集10
 一八八〇年(五九歳)から一八八一年(死去)まで

 この本は、その8にあたります。

 この古典教養文庫版の「ドストエフスキー全書簡集8: 「作家の日記」の頃」には、次のような特長があります。

  1. 現在では使われない言い回しや言葉は、現在普通に使われる言葉に置き換えました。現代人には意味の取りにくい文は、平易な文に書きなおしました。しかし、その場合でも原訳の高い格調はできるだけ損なわないように最大限の配慮をしました。

  2. 原文で触れられた場所、人物、絵画などを中心に、関連する画像を、著作権フリーのものにかぎって、いくつか挿入しましたので、より興味深く読み進めることができます。

  3. わかりにくい言葉や、登場人物、でき事、作品などについての適切な注を、編集者が割り注の形で入れましたので、本文の理解が深まります。

ドストエフスキー全書簡集8: 「作家の日記」の頃について

弟アンドレイへ(一八七六年九月六日)
 ……しかし、それにしても、こういうことは実に不思議だね、なつかしいアンドレイ、わたしたちが小さな子供だったのは、そんなに遠い昔のことだったろうか? わたしは今でもよく、本当によくおぼえている。わたしが亡くなった兄と並んで寝ていると、朝四時過ぎにお父さんが揺り起こして、さもうれしそうに、アンドリューシェンカという弟が生まれたんだよ、と知らせてくださったものだ。ところが、そのお前が娘を嫁にやることになって、それをわたしとアンナに知らせてくれるんだからね。わたしたちの時は、空想のように飛び過ぎてしまった。わたしは自分の生涯がもう長くないことを承知しているけれど、それでも死にたくないばかりでなく、その反対に、やっと生活をはじめたばかりのような気がするのだ。わたしは少しも疲れていないが、それでももう五十五だ、やれやれ! しかしお前には、ことに今この際、できるだけ達者で長生きして、子供たちを眺め、孫たちをあやすようにと祈る。人生でそれよりいいことはないからね。
dostoevsky-all-letters-8-img

底本

 ドストエフスキイ全集 17
   訳者 米川正夫
   河出書房新社
   昭和四十五年十一月三十日 初版発行
   昭和五十六年六月八日  第八版発行

コメントする